仙台高等裁判所 昭和29年(う)323号 判決
所論は、被告人は佐藤誠之進から五万円の供与を受け、羽生信外二名に対し合計一万五千円を供与したのであるから、押収にかかる現金五万円のうちより右差額に相当する三万五千円を没収するのが妥当であるのに、原判決が三万八千円の没収を言渡したのは不当であるというのである。しかし、記録に徴するに、被告人は佐藤より原判示一の現金五万円の供与を受ける以前に自己の所持金のうちから原判示二の(一)の(1)(2)の金員合計三千円を羽生に供与し、右五万円の供与を受けた後該現金のうちから原判示二の(一)の(3)、(二)の(1)(2)(3)及び(三)の(1)(2)(3)の金員合計一万二千円を羽生外二名に供与したのであり、従つて被告人の収受した現金五万円中残存するのは三万八千円であるところ、被告人はその後右収受した残現金三万八千円に他の所持金一万二千円を補充し合計五万円の現金(証第一号)を保管中これを押収されたものであり、しかも右押収された現金はすでに混和しそのうちいずれが収受した利益であるかを識別することが不可能となつたことが被告人の当公廷における供述により認められるから、本件は公職選挙法第二百二十四条後段にいわゆる収受した利益を没収することができない場合に該当し、右法条により被告人からその価額三万八千円を追徴すべき筋合である。所論は独自の見解に基く主張であつて採用しえないが、原判決が被告人に対し押収にかかる現金五万円のうち三万八千円を没収する旨の言渡をしたのも法令の解釈適用を誤つたものであつて違法であり、この誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから原判決はこの点において破棄を免れない。しかし本件は被告人のみの控訴にかかり、原判決の言渡さなかつた追徴刑を新に言渡すことは、原判決を被告人の不利益に変更することとなるから、当裁判所は被告人に対し右言渡をしない。
(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 有路不二男 裁判官 沼尻芳孝)